元々はノーチェックだったんです。ですが、某書評サイトの読友さんが2度目の鑑賞したというつぶやきを目にして、興味持ちました。免許更新の帰りに、ちょうどいい時間帯のがあって鑑賞。例によってネタバレ含みます。
役所広司演じる平山は東京都の公衆トイレの清掃員。
・築50年くらい経ってそうなアパートに住まい、早朝に起床。歯を磨き、植木に水をやり、ひげの処理をし、玄関に置いた小物・小銭をポケットに入れて作業車で出かける。
・複数の現場をこなし、昼は神社の境内のベンチでサンドイッチ。フィルムカメラで木漏れ日の写真を撮る。
・午後の仕事が終わると銭湯で一番風呂を楽しみ、行きつけの店で1,000円くらい?1杯飲んで帰宅。中古本屋で買った本を眠くなるまで読んで寝る。
・休みになるとコインランドリーで作業着その他を洗濯し、フィルムカメラを現像して写真の良し悪しを選別して保管(これは月1くらいか)。馴染みの小料理屋で他の常連にかまわれながら女将とたわいのない会話をして過ごす。
こんな日常をじっくりと描いていく。単調で、毎日同じことの繰り返しのようでいて少しずつ違っている。
・若い同僚・田中が遅れて出勤してきたかと思えばデートに使う原付が壊れたから車を貸してほしいと言われ、断り切れずに3人で車で移動する、カセットテープに興味を持った田中と中古屋に行き、数本を査定してもらう。田中に金を貸す。現金がなくなってやむなく1本を処分しガソリンを入れる(多分)。
・田中と一緒にいたアヤが後日やってきて車でカセットを聴いていく。
・田中が突然辞めて、1日ワンオペとなり、夜中まで清掃して、カップラーメン1つ食べて就寝。
・姪のリコが家出して平山のアパートの階段で待っている…
という感じで、同じようで違う日々が描かれている。地味だけど味わい深い。青春小説に対して、老境を描いた小説を玄冬小説というそうだが、いわばこれは玄冬映画。だからきっと若い頃にこれをみたら「何だこりゃ、退屈…」ってなったかもしれない。でもいい味がある。滋味がある。ずっと観てられる。説明しすぎない描写なので、何回観ても新しい発見や解釈が出てきそう。
平山には家族もなく、オンボロアパートで静かに暮らしていて、ちっとも「パーフェクト」ではない日常に見える。まるで仙人のようだ。でも感情の起伏の少ない穏やかな毎日を過ごし、平山自身は興味のあることを継続できている。要所要所に顔なじみがいて、それくらいのかかわりが平山にとって気持ちいいのだろう。独り平気なタイプなのでちょっと憧れる…(笑)
しかし銭湯や商店街のカメラ屋、アパート、いずれ廃業したり解体したりされそうなところばかりだ。銭湯も小料理屋も常連は老人。平山自身も年齢は不詳ながら、60代後半ではあるだろう。この先20年もこの生活を続けられるわけではないだろう。
リコを迎えに来た(母親である)妹ともずいぶん久しぶりに会った感じ、そこで言及される衰えた父親についてのセリフ、平山の反応から考えると、元々は裕福な家庭で育ち強権的な父親から逃れて(家出とか)今の生活に至ったのかと推察。別れた妻子がいるようなことはなさそうだ。
それでも久しぶりに会ったリコとの関係性は良好。なかなかハイティーンが数年ぶりにあったおじさんの使ってた布団で寝るなんてなさそうだけど(笑)
なじみの古本屋に行って本を買うと毎回作家や著書について短評を述べる女店主。いいな。
平山の居室は物が少ない。洋服ダンス、ラジカセ、カセットテープのラック。趣味の鉢植えくらい。家電類まで昭和ものすぎてちょっとファンタジー。毎日使っている電気スタンドはきっと本当ならばLEDのものに買い替えているだろう。銭湯だったか居酒屋だったかのテレビはブラウン管だった。渋谷のガラスの色が変わるトイレのある時代にブラウン管か。変換ユニット付けてれば映るけどさ…
エアコンはあるのかな。夏は暑く、冬は寒そうなアパートで、女将とくっつくことがなければ将来熱中症で死んでしまうかもしれない。
平山のアパートの前にあって、毎日平山が缶コーヒーを買う自販機。ノーブランドものだけど持っているのは役所さんがCM出演してるBOSS。芸が細かいですね(笑)
主演の役所広司がよいのはもちろんだけど、終盤に出てくる三浦友和がまた良かったなぁ。悪からず思っていた(と思われる)女将に男がいて動揺→やけ酒も人間臭くていいですね。
正直、観終わった直後は「じ、地味~(想像以上に)」だったけど。余韻があってだんだん「ああ、いい映画だったな」と噛みしめる感じ。「スルメのような」というのは月並みなので考えますと、茅乃舎とか久世福商店とか試飲させてもらう出汁。あれ「ずっと飲んでられる~」って思うけどあんな感じかな。派手さはないが滋味あふれ、飽きが来ない。個人の感想ですけど。こういう作品がカンヌ獲るのいいですね(主演男優賞)。惜しくもアカデミー賞は獲れなかったですね。
「木漏れ日」という概念が日本固有であることは前に何かで読みましたが、本作のラストで英字幕で解説してました。そうなんですね。「たゆたう」とかもないのかな…
(人生折り返しに差しかかった)人には響くものがあるんじゃないかなぁ。小説で言うならば純文学のような作品でした。(9/10)シアタス心斎橋にて。
さあ、次はいよいよ「オッペンハイマー」だな!!
【追記】2024.3.31
録り貯めしていた「新美の巨人たち」2023年12月2日の回が「THE TOKYO TOILET」だった。あらかじめ見ていたらもっと楽しめただろうなぁ。ロックすると曇りガラスになるヤツしか知らなかったもんなぁ。