「トップガン・マーヴェリック」大ヒットにも「シン・ウルトラマン」にも今一つ食指が動かない私。感性が鈍磨しているのだろうか…
「万引き家族」も観ていないのに是枝作品の新作「ベイビー・ブローカー」なんて観に行かない。そんな私が3カ月ぶりに観に行った映画は、75歳以上の老人が死を選択できる制度のある現代日本を扱った「PLAN75」。大丈夫か私(笑)。
団塊ジュニア世代の我々は正直年金などあてにできない。年配のお客さんと話してて年金の話題など出てきたら「我々の頃は働けなくなった時が死ぬときですよ(苦笑)」などと嘯いていたのだけど、劇中、まさにそんなシチュエーションが。以下、例によってネタバレ含みます。
78歳の後期高齢者ミチは同年代の3人と共にホテルの客室清掃の仕事をしていた。そのうちの1人が作業中に倒れたことを機に全員契約満了となる。78歳ともなると新しい仕事もなく、家賃を下げるべく不動産屋に行っても相手にされない。夜間に立った誘導員仕事は体に応えている感じ。「もう少し自分で頑張りたい」ミチだったが生活保護の相談を受けようとするものの当日の枠は既に埋まっている。やむにやまれず「PLAN75」を申し込み…
といった感じ。他に「PLAN75」の職員で、音信不通だった叔父が申し込んできたことをきっかけに20数年ぶりに交流するヒロム、国に置いてきた娘が心臓の病気でお金が必要になり、介護職員から「PLAN75」施設の職員になるフィリピン出身のマリア。それぞれのエピソードが終盤多少交錯する。
最初は「死ぬのにお金がかからなくて、死後は機械的に処理されて、生前に10万円支給されて、なんなら思いとどまることもできて、こらぁいいじゃない」と思ったけど、どうなんだろう。孤独死かもしれないけどミチの同僚のように自宅で(なんらかの発作で)亡くなる方が本人的にはいいのかも。後片付けは大変だが。
ミチの場合、(少なくとも)2度結婚したようだが身寄りはない。身寄りのない独居老人が「働けなくなった時が死に時」となるプロセスはなんだかとてもリアリティがあるなぁと思った。
そして後期高齢者の割合が減って、予算に対する割合が減っていくと国家的には「明るい未来」が待っているのかなぁ?出生率が上がったりとかして?(劇中ニュースでそんなことを言っている)
施設でガス吸引のマスクまでしていたミチは結局そのマスクを外して施設を出ていく。
施設まで叔父を送り、ガス処置で亡くなった叔父の亡骸を奪うように自分の車に乗せて引き返すヒロム。それを手伝い、遺留品の大金を懐に収めるマリア。
随分施設のセキュリティが緩いなぁ。カメラすら設置されていないのだろうか。低予算でそんなに人かけられないという事情によるのだろうか。話をスッキリさせるためにあえてそうしたのだろうか。
叔父の亡骸を助手席に座らせながら火葬設備に予約を入れるヒロムのシーンはとてもシュール。死亡診断書とかないし、色々大変そう。当日の16時に間に合わすために急いで走って白バイに捕まってるし。白バイ隊員が叔父の死に気づいたのかどうかは触れられていない。
ミチはいくばくかのガスを吸引したはずだが、その後遺症はどうなのだろう。ミチが山から街を見ながら歌謡曲を口ずさんで終わるラストはとても純文学的。カメラドールをとった映像は美しいと思いました。
ミチのメンター役(この人も規則を破ってミチとプライベートで交流。色々ユルイ組織w。定期的に会話していた相手の老人が最後の会話から数日後にこの世からいなくなると思うと、蓄積してメンタルやられそうな仕事だ)の河合優実さん、石原さとみさん級の唇ですね
主演の倍賞千恵子さん、80歳ですか。素の「老人」感がすごい。歩き方とか。そして耳が大きいですね。
ヒロム役の磯村雄斗さんは「ミラモン」で見かける程度でしたが(笑)、ブツブツ目の肌感、濃いめのひげの剃り跡などで一般人感出てました。美しすぎて浮くことがないような。
自分で行くことを選ぶ「姨捨山」みたいな。「姨捨山」と違って、年長者の知恵が貴ばれなくなった現代。思った以上に心に残る作品でした。夜の回は30人くらいいたかな。「PLAN75」まであと25年強。世の中どうなっていますやら…。7.5/10。大阪ステーションシネマにて。